この日は今年二回目となるねぶり会。
残念ながら『つけ麺専門店 酔軒(すいけん)』店主のシェイクさんは不参加となりましたが、私、髭茶髪さん、そうパパ(以下ロビちゃん)、ガブさんの四人は昼からのチェックインとなりました。
1秒でも早くスープの仕込みを開始する為、四人協力して設営を急ぎます。
冒頭でもお伝えした通り、この日の髭茶髪さんは大きな寸胴をキャンプ場内に持ち込んでいます。
「豚骨の濃厚さを引き出すには今の鍋じゃ小さすぎる。」
以前からそう感じていた髭茶髪さんはついに決断したようで、ヤフーショッピングでこれまで貯めてきたポイントをすべてつぎ込み、この寸胴を購入したそうです。
これまで何度もキャンプ場でラーメンを作ってきた髭茶髪さん、いよいよ一線を越えてきたようです。
しかし鍋が大きくなると、それだけ材料も多くなるもの。
彼の持ってきたソフトクーラーを覗いて見ると、もはやゲンコツと鶏ガラしか入っていませんでした。
設営を終えた髭茶髪さんは、早速いつものようにゲンコツをキャンプ用のハンマーで叩き割り始めます。
森のまきばというキャンプ場に初めてゲンコツを持ち込んでから1年半…
もはや見慣れた光景です。
ゴツッ!バキッ!ゴツゴツ… バキャッ!
鈍い音を響かせながら、硬いゲンコツに何度も何度もハンマーを打ち下ろす髭茶髪さん。
すぐ後ろでは、サッカー合宿で昭和の森を訪れた小学生達が指導員による点呼を受けています。
こうして割り終えたゲンコツを一気に寸胴へと投げ入れ、これから数時間に及ぶ長い煮込みが始まります。
一方、前回のねぶり会でケンタッキーフライド担担麺という、味と独創性を高次元で融合させる見事な一杯を実現させたロビちゃんもすでに仕込みを開始しています。
まずは鍋に大量の手羽元を投入し、じっくりと鶏エキスを抽出していきます。
もちろんロビ系スープの代名詞となるケンタッキーフライドチキンも欠かしません。
前回よりもさらに濃厚な鶏エキスを凝縮させたいと語るロビちゃん。
今回作るラーメンはズバリ、、、
カーネル系 鶏白湯ラーメン。
果たして今夜、ラーメン業界を揺るがす一杯は完成するのでしょうか。
1人2個づつという強制ノルマを与え、全員にケンタッキーを食べてもらうロビちゃん。
もちろんそれだけのケンタッキーを購入する為に、数千円ものお金もはたいています。
そうまでしてロビちゃんが欲しいもの…
それはもちろん食いカスです。
一般的にはただの食いカスですが、ねぶり会の中では最上級クラスのねぶり骨として君臨しておりメルセデスと呼ぶこともあります。
一個からわずかしか取れない希少性がその価値をさらに高めているのでしょう。
ロビちゃんはこの骨を手に入れる為だけに、わざわざケンタッキー店舗へと足を運んでチキンを購入しているのです。
こうして手に入れた上質なKFCねぶり骨を鍋へと流し込んでいくロビちゃんですが、下準備はまだ終わりません。
じっくりキツネ色になるまで炒めてペースト状にしたタマネギも投入し、さらには髭茶髪さんが持ってきたスナック菓子のハートチップルも鍋の中へと投げつけていきます。
そして味の調整に登場したのは千葉が誇る焼肉店『赤門』製の塩こしょう。
別名タンブレンドとも呼ばれており、とても美味な万能調味料なのです。
以前私がロビちゃんにプレゼントしたものですが、まさかカーネル系鶏白湯に使用してくれるとは夢にも思っていませんでした。
ピーナッツ国民として嬉しい限りです。
そして今回よりガブさんも参戦します。
しかしラーメンを作るのではなく、みんなのラーメンに合う最高のチャーシュー作りを目指すそうです。
つけ麺のシェイク、髭系の髭茶髪、カーネル系のロビちゃん、ラーメン担当の3人を影から支える役目を自ら名乗り出てくれたガブさん。
ラーメンに合う最高の味玉作りを目指している私と同じく、今後はトッピング担当としてねぶり会を盛り上げてくれそうです。
「ラーメン店のように大きくて丸いチャーシューを作りたい。」
そうガブさんが語るように、やはりチャーシューは味はもちろん見た目の美味しさも非常に重要になってきますね。
ぐるぐる巻きにした豚肉を糸でしっかりと締めて形を整え、ネギなどと一緒に煮込みを開始します。
肉に味をつけるのは残り20分くらいからで十分だと細かく説明してくれるガブさん。
もちろんその知識はすべてクックパッドの一夜漬けです。
黙々と自分に与えられた仕事をこなしていく3人。
もはやキャンプ場ではなくラーメンショップの研修室にしか見えません。
しかし、ここまで順調に見えていたラーメン作りでしたが、ここで予想外のトラブルが発生します。
寸胴が大きすぎて髭茶髪さんのスープが全く沸騰しないのです(笑)
中で眠る大量のゲンコツも生煮え状態のままでした。
スープが湧かない。
過去に例のないまさかの非常事態にパニック状態の髭茶髪さん。
子供の笑い声が響く楽しいはずのキャンプ場内に、顔面蒼白のオジサンが1人誕生しました。
スープが湧かない。
入念な準備とイメージトレーニングを重ねながら、この日を待ちわびてきた髭茶髪さん。
全力で作って不味いのならまだ納得もいくが、スープが湧かずに失敗だなんてあまりに残酷な話です。
俺のスープよ、湧いてくれ。
ここまでの出汁を捨てるのは非常に勿体ないが、もはや寸胴の水量を減らすしか打つ手はない。
髭茶髪さんは祈るような気持ちで一人バケツリレーで出汁を汲み出していきました。
それでも沸騰しない寸胴。
「なんで俺はこんな大きな寸胴を買っちまったんだクソ!しかもポイントで!」
髭茶髪さんは自分を責め、もはや見ていられる状況ではなくなってきました。
なので私は、髭茶髪さんにダメ元でパワーガスの使用を提案。
自分が持っていたSOTOのパワーガスを一本与えてチャレンジしてみることにしました。
すると、、、
見事に沸騰!!
グツグツと心地良い沸騰音が響く寸胴から、一気に豚骨臭が漂い始めてきました。
これで髭系ラーメンが作れる。
全員がホッと胸をなでおろします。
これには髭茶髪さんも大喜び!
寸胴上に顔を出して湯気を顔中に浴び、豚骨臭を肺一杯に吸い込んでいきます。
髭茶髪さんにとって豚骨臭はマイナスイオンと同じ効果があるのです。
元気を取り戻した髭茶髪さんは本領発揮、上機嫌でねぶり会のソウルフードである手羽先を焼き始めます。
しかしラーメン作りのタイムリミットはキャンプ場の消灯時間である22時。
スープ湧かない事件によって大きく時間をロスしてしまった髭系ラーメンには一刻の猶予もありません。
私達は、焼く⇒ねぶる⇒皿に置く のスリーアタックを可能な限りコンパクトにした動線、通称『ねぶりライン』によって次々とねぶり骨を生成していきます。
このねぶりラインの動きを文章で伝えるのは難しいのですが、ゾーンで動くという意味ではサッカーのゾーンプレスに近いのかも知れません。
しかし、そんな中でも髭茶髪さんは個人技を光らせます。
両手を使わずに手羽先を食べる技術点の高い大技『ノーハンドねぶり』を披露して場を盛り上げてくれました。
彼に咥えられた手羽先は踊るように口内へと吸い込まれいき、再び彼の口から出てきた時は見事に骨だけの状態になっていきます。
それなりの練習は必要だとは思いますが、手元にティッシュがない場合や手を汚したくない場面など、比較的需要度の高いねぶり構えなので覚えておいて損はないと思います。
こうして生成されたねぶり骨を、、、
半分はカーネル系鶏白湯へ流し込み、、、
残り半分は髭系スープに流し込んでいきます。
捨てるなんて勿体ない。
これがもったいない根性から生まれた我々ねぶり会による『ねぶりラーメン』の真骨頂なのです。
そんな行為の数々が、陣幕に包まれた小さな空間で行われていました。
ねぶり骨を入れ終えたところでスープ作りもやっと一休憩。
我々はスピーカーであるものを聴くことにしました。
といってもそれは音楽ではありません。
吉村実氏の肉声です。
昔放送されていた吉村家ドキュメントの音声だけをスピーカーから流し、ラーメン道の厳しさを耳から感じ取ります。
でもそんな中でも髭茶髪さんの手が休まることはありませんでした。
耳で吉村実氏を感じながら、家系に必須の鶏油を抽出していきます。
ロビちゃんも手を止めません。
長時間煮込んでいた手羽元を鍋から取り出して肉をそぎ落とし、包丁でミンチ状になるまで叩き続けます。
それを時間をかけてゆっくり延々に、ペースト状になるまで続けるのです。
そうして極限までミンチ状になった手羽元の肉を、、、
再びスープの中へと注ぎ込んでいきます(笑)
もはや排水溝に溜まった汚水にしか見えません。
こうして最高に楽しくも険しき我々のラーメン道は続いていき、、、
ラーメン作りは勝負の終盤戦に突入していきます。
タイムリミットの22時も徐々に近づきつつある頃、カーネル系鶏白湯スープはクライマックスを迎えようとしていました。
ロビちゃんは1日をかけて煮込み続けてきたスープにザルを入れ、底に沈んでいるヘドロのような物体をすくい始めました。
そしてそのヘドロをキッチンペーパに包むと、力一杯の握力で絞り潰します。
強力な力で絞られたヘドロからとめどなく溢れ出るドブのような濁った液体…
きっとこの液体もロビちゃんが求める凝縮された鶏エキスなのでしょう。
もはやそう信じなければ、この醜い光景を直視することはできませんでした。
「ぐわぁぁ~…汚ったねぇぇ~…」
横から見守るガブさんも、完全に汚物を見る眼差しでそう声を漏らします。
しかし最後に濾されたスープを見てみると、とても濃厚そうな鶏白湯スープが姿を現していました。
しっかりとしたトロミも生まれており、凝縮された鶏エキスを視覚からも感じることができる仕上がりに全員からも驚きの声が上がります。
もしかすると、これはかなり期待して良いのかも知れません。
ロビちゃんはそのまま一気にラストスパート。
だいぶ慣れてきた手つきで4人分の麺を茹で上げていきます。
さらに鶏白湯ならではのトッピングも用意しているらしく、そちらの準備も忙しなく進めていきます。
そしてそのタイミングに合わせてガブチャーシューも良い具合に完成したようです!
ラーメン店のような綺麗な煮色と円形をしており、ガブさんが目指した理想形にかなり近い仕上がりではないでしょうか。
しかしラーメンの神様は時に残酷なもの…
鍋から上げる際に糸がほどけてしまい、まな板に置いた時には買った時のままの姿に逆戻りしていました(笑)
さらに肉質のせいか、煮込み時間のせいか、はたまたガブさんが酒に飲まれていたせいか…
チャーシューが全く思い通りに切ることができていないようでした。
もはやチャーシューの原型を留めてません。
豚のほぐし肉。
こう呼んだ方がしっくりきそうです。
残念ながら見栄えは失敗と言うほかないのかも知れませんねぇ。
でも肝心なのはやはり味!
濃さのバランスもよく、さらに非常に柔らかく仕上がっていて味の方は文句ないレベルに仕上がっていました。
しかしガブさんのチャーシュー作りはまだ産声を上げたばかり。
今後の成長が楽しみです。
そういう私ガブさんと同じくトッピング担当。
二日前から自宅で仕込んでおいた味玉の準備に入ります。
本当は名古屋コーチンで味玉を作りたかったのですが売ってなかったので、とりあえず最寄スーパーで一番高い卵で作りました。
それをこの日の為に購入した卵切機、その名も『玉子半ぶんこ』で綺麗にカットしていきます。
さらにラーメンのお供として餃子も焼きました。
これで髭茶髪さんとロビちゃん、2人のねぶりラーメンを引き立てる脇役の準備も完了です。
まず先行はロビちゃん。
軽快に茹で上げた麺に1日かけた渾身のスープ、そこにガブチャーシューやカモ味玉などのトッピングで彩れば、、、
カーネル系 KFC鶏白湯ラーメン
…の完成です!
KFCというアメリカ素材を使用しながらも、白髪ネギと糸唐辛子で鶏白湯の上品さを醸し出しており、とても気品に満ちた一杯に仕上がっています。
まさに日米の融合、この一杯が日米友好の架け橋になればと願うロビちゃんの気持ちが伝わってきます。
そして肝心の味はというと、、、
うんめぇぇ~!!!
白濁色のスープを一口飲むと、口一杯に優しく広がる鶏エキスの上品かつ濃厚な旨味。
最近、巷でも流行っている鶏白湯と呼ぶに値する味だと思います。
しかし余韻にはしっかりとKFCのワイルドな味も感じることができ、見た目だけではなく味からも日米の融合を感じることができます。
隣で食べている髭茶髪さんもこの旨さに驚きを隠せない様子。
美味いと認めざる得ないこのカーネル系鶏白湯ラーメンの味に酔いしれます。
完食完飲。
ごちそう様でした。
という訳で、カーネル系鶏白湯ラーメンは、、、
大成功!!
製造過程では、どう見てもヘドロとしか思えなかったスープがここまでの変貌を遂げるとは…
ロビちゃんの腕前には恐れ入りました。
しかし常に上を目指すロビちゃん。
次回のラーメンも楽しみにしています。
そして次は大御所、髭系総本山ねぶりラーメンの登場です。
果たしてロビちゃんの成功に続くことができるのでしょうか。
髭系伝統の平ザル(ダイソー製)を巧みに操り、4つのドンブリに均等に麺を振り分けていく髭茶髪さん。
そこへ自信作である自家製カエシと、湧かない事件を乗り越えて完成させた奇跡のトリプルスープを注ぎ込めば、、、
髭系総本山 髭系ねぶりラーメン
…の完成です!
色合い的にはいつもよりも茶色が弱い気がしますが、金色の鶏油はしっかり表面に浮いているのは確認できます。
醤油タレ、豚骨、鶏油…、この三種の神器が高次元で融合されることで生まれる家系独特のあの味わい。
その味に心酔し、週5で杉田家に通っていた時期もある髭茶髪さんならきっと辿り着けるはず。
それでは、、、いただきましょう。
一口スープを飲むと、それはいつかどこかで食べたことのある味でした。
でもそれは、、、
杉田家の味ではありません。
きっと私にとって、、、
良くない思い出の味。
何かの間違いであってほしい…。
私は勇気を出し、もう一回だけスープを飲んでみました。
その瞬間、忘れかけていたあのトラウマが鮮明に脳裏に蘇ってきました。
そう、間違いない…
この味は間違いなく、、、
ガラコ系の味。
あの日、私をもがき苦しめた悪魔のラーメンが再び私の前に姿を現しました。
しかも寸胴で作っただけあり、前回よりも大盛りで…。
そんな私を横目に、隣で悪びれる様子もなく一服をする髭茶髪さん。
この時点で、私はこの男を毒博士と呼ぶことにしました。
しかし本人が言葉に出さずとも、今回の出来が大失敗だったことは彼自身がよく分かっているはずです。
その証拠に、一口目を食べた髭茶髪さんが誰よりも先に「俺…いらね。」と髭系ラーメンをテーブルに置いたからです(笑)
そう、誰よりもこのラーメンが毒だと理解しているのは、他でもない髭茶髪さん本人なのです。
…という訳で、今回の髭系ねぶりラーメンは、、、
大失敗。
同じ過ちを繰り返してしまった髭茶髪さん。
相当ショックを受けたようで、しばらくゲンコツなんか見たくないそうです。
翌朝。
一晩経ったのに箸がほとんど下がってないところがガラコ系の恐ろしさを物語っています。
そして私達は朝食も食べず、いつも通りに9時ちょうどに昭和の森を後にしました。
その40分後。
私達4人の車は、仲良く駐車場に並んでいました。
もちろん杉田家 千葉店です。
この味を目指し、髭茶髪さんの戦いはまだまだ続くことでしょう。
ラーメンへの情熱がある限り、ねぶり会に終わりはありません。
そして今回のねぶり会を経て、もう一つ分かったことがあります。
それは、酒に飲まれて自滅するのは、、、
シェイクさん、あなただけのようです(笑)
完。
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